懐かしくない人

懐かしくない人
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歳を取るにつれ、なぜかバッタリ
人に出くわすことが増える気がする。

新宿駅のホームで
「金子さん」と声をかけられた。

見ると以前、
一緒に仕事をしたことのある女性だった。

「お元気そうで」

頭のてっぺんからつま先まで
さっと僕に視線を走らせながら、
そう彼女が言う。

でも申し訳ないけど
僕には彼女は「懐かしくない人」だった。

なんと言ったらいいんだろう?
不思議な話し方をする人で。

言葉の裏に別の意味がたっぷりこもった
モノの言い方をする人だった。

例えば「お元気そうで」と言葉では言う。

でも同時に
「こんなとこで何してるの、あんた?」
というニュアンスを相手に感じさせる。
それはもう、見事なくらいに。

彼女にはずいぶん傷つけられたし、
嫌な思いもさせられた。

本人にはきっと、
その自覚はないのだろうけど。

たぶん「お元気そうで」と
言われた瞬間からここまでが0.7秒くらい。

あれこれ苦いことを思い出したのが
顔に出てたかもしれない。

「お元気そうで、なによりです」
と彼女が言う。

「ええ、まあ…」と僕がつぶやく。

おかげさまで。
あなたとの付き合いも、もう無いしね。

とはもちろん言わなかった。
一応大人なので。

「これからどちらまで?」と彼女が聞く。

「恵比寿へ用があって」

自分でもちょっと驚くくらい、
大きな明るい声が出た。

「そうですか。…じゃあ」

と、殊勝な彼女には珍しく、
心なしか淋しそうな表情だった。

「じゃあ、また」

とは僕は言わなかった。
黙ってそのまま恵比寿に向かった。

冷たい対応だったろうか?

いや。

仕方ないじゃないか、と思う。

彼女に僕がどういう存在だったか知らない。
でも僕には彼女は懐かしくない人だった。

それは変えられないことだった。

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2 件のコメント

  • いい文章ですね。味わいがあります。
    「僕」がしっかり自分を守れた感じがしてほっとします。

    その彼女もずっと誰かの被害者なんでしょうけど、そこまで面倒見れませんよね。

    • 「しっかり自分を守れた感じ」、思い返してみれば本当にそんな気がします。
      ありがとうございます。

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    ABOUTこの記事をかいた人

    1972年生まれ。 息子は小学三年生の時に不登校になり、小・中学校には通うことなく卒業しました(現在19歳・大学生)。 不登校や親子関係の悩みについて、セミナーや講座をお届けする「びーんずネット」の事務局を担当しています。趣味はマラソン。不登校をテーマにしたインタビュー事例集『雲の向こうはいつも青空』や各種書籍の出版をしています。