正しさにやり込められる

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車でうちの奥さんを駅まで送った後。
近道になるので、細い路地に入った。

歩行者が多いので徐行して進んでいると、
一人の中年の女性が胸の前で
バツマークを示しながら近づいてきた。

彼女が僕の行く手に立ち塞がるので、
ウィンドウを下げて顔を出した。

「進入禁止」と彼女が言う。

「えー、そうなんですか?
知りませんでした」と僕。

この路地はしょっちゅう通ってる。
そんなの初耳だった。

「戻って」と彼女が言う。

もうこの路地の半ば以上来てるのに?
と多分僕の顔が言っていたのだろう。

「早く」と彼女が催促する。
路地の入り口に向かって顎をしゃくる。

そこまで自信を持って言うんなら…

仕方なく十数メートルぶんくらい
バックして戻った。
入り口のところでチラッと見ると、
確かに時間帯指定で進入禁止だった。

何が言いたいか?

完全に彼女が正しい。
標識を見落としていた僕が100%悪い。

そこに異存はない。異存はないのだけど、
でも僕は猛烈に腹立たしかった。
敗北感と屈辱感しかなかった。

「進入禁止」「戻って」「早く」

彼女が言ったのはこの三語だけだった。
毅然として妥協の余地のない、
信念に満ちたドヤ顔だった。

まごうことなき正義の聖なる執行者だった。

彼女が正しいのはわかる。

でもそこから20分くらいは、
何か彼女に言い返す言葉がなかったか、
頭の中であれこれ探した。

自分のその小ささに苦笑しながら、
でも考えないわけにはいかなかった。

なぜだろう?

きっと彼女が正しさで僕を
やり込めたからだと思う。

そう、やり込めたのだ。

だから僕は20分ばかりも
一矢報いる方法を探してしまったのだ。

例えば、、、

「この路地を知っているからには、
地元の人なんですよね。

でもここが時間帯によっては
進入禁止なのを知らないドライバーが多くて
私たちはとっても困っています。

見ての通り、通勤通学の時間帯は
小・中学生もたくさんこの道を通ります。
危険だからこの時間は進入禁止なんです。
バックして戻ってください」

こういうふうに彼女に言われたら、
きっと僕は恐れ入って
反省しながらバックしたと思う。

正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい
「祝婚歌」吉野弘

進入禁止だと教えてくれただけ、
彼女に感謝すべきなんじゃないか?

そういう考えもあるんだろうけど、
(たぶんそう考えるのが健康的だ)

でも僕は器が小さいのでそうは思えない。

おかげでブログのネタにはなった――。

彼女に感謝したいのは、
僕の場合、その点だけだ。

我ながらホント、小さい!笑

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ABOUTこの記事をかいた人

1972年生まれ。 息子の忍介は書字の学習障害と軽度の発達障害があり、小学三年生の時に不登校になりました(現在通信制高校1年生・忍者好き)。 不登校や親子関係の悩みについて、セミナーや講座をお届けする「びーんずネット」の事務局を担当しています。趣味はマラソン。不登校をテーマにしたインタビュー事例集『雲の向こうはいつも青空』を出版しています。