昔むかしのことだけど。
会社の先輩に新城さんという人がいた。
明るくて面白くて、そしてとんでもなく
要領がいい人だった。
仕事が早かったし、こなす量も多かった。
新城さんは僕が入社したその年結婚した。
奥さんは目も眩むような美人だそうで、
さっそく会社の近くに新居を買った。
新城さんは若い頃、
先輩たちから頼まれた使いっ走りで、
お釣りを失敬したか、返すのを忘れたか
忘れた振りをしたか、
とにかくお釣りの扱いに問題があったらしい。
その新城さんが買ったマンションは周りから
冗談で「釣り銭御殿」と呼ばれていた。
新城さんの仕事ぶりは見事なんだけど、
よく見るとカラクリがあった。
本来は最終のOKを取ってから
進めるべきところ、OKが出るという前提で
次の工程に平気で取り掛かる。
彼の裁量で本来決めるべきでないところも
勝手にどんどんOKを出す。
ちゃっかり、軽やかに独断専行をしていた。
同時にテキパキと埋合わせや後処理もした。
肝が据わっていて、恐ろしく器用だった。
ほぼ新城さんの見立ての通りになるし、
面白いように小気味好く仕事は回って
いくんだけど、稀に彼のフライングや
越権行為が問題になることもあった。
でもそういう時も炎上することはなかった。
気がつけばいつの間にか不問にされ、
彼は新しい仕事をどんどん任されていた。
僕なんかには真似のできない、
ウルトラスーパーミラクルな
要領の良さだった。
そういう人っているのだ。
さすがの釣り銭御殿だった。
・・・・・・・・・・
なぜ今頃突然そんなことを
思い出したのかと言うと、、、
いつも通っている道がある。
でも警備員のおじさんがある日突然
変わっていて、新しいその人が今日から
ここを通るのはまかりならんと言う。
「これまで問題なくここ通ってきましたよ」
僕ら何人かで抗議をしたのだけれど、
ダメだそれがルールだ、
守らないなら警察呼ぶぞ、と警備員さん
凄んでまったく譲らない。
仕方なしに別の道へ向かおうとしたところ、
やおら警備員さんがキレて
「もういっぺん言ってみろこの野郎」
と怒鳴りながら、ひょろりとした長髪の
少年に殴りかかるのが見えた。
殴られていたのは忍介だった。
「おい、なにも殴ることはないだろ!」
その警備員に向かって
怒鳴ったところで目が覚めた。
・・・・・・・・・・
忍介は釣り銭をごまかさない。
とっときなよ、と言っても律儀に返してくる。
もしくは残高を申告する。
彼が嘘をついたのも聞いたこともない。
不登校になる前、先生に成り代わって
騒がしい級友を怒鳴りつけたりしていた。
要は、良く言えば正義感が強く、悪く言えば
生真面目で融通がきかないタイプだ。
そして
「実力派の中二病(本人談)」でもある。
きっと警備員さんに
余計な一言を吐いたんだろう。
そしてこんな夢を見るのは、
そんな忍介のことがやはり、
僕の深層心理の中では心配なんだろう。
心配しても仕方のないことだけど、、、
まさか新城さんの釣り銭御殿式処世術を
教えるわけにもいかないしね…。
っていうか、新城さんのことなんか話したら
新城さんに対して本気で怒りそうだし。
正義感の強い忍介と、要領の良い新城さん。
ちょうど中間くらいの僕としては、
何とも微妙な気持ちにさせられる夢だった。
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