緊急着陸態勢

緊急着陸態勢

忍介が小学校三年生で不登校になっていた間、

車で外出して家に戻る時、家が近づいてくると後部座席の忍介はいつも同じ姿勢を取った。

友だちに会いたくない

飛行機の「安全のしおり」にある緊急着陸時にとる姿勢ーーー上半身をできるだけ前方に曲げて、両手で両方の足首をしっかり握る、あの姿勢だ。

毎回家の近くに来ると、バックミラーから忍介が見えなくなるので気がついた。

理由もわかった。

外で遊んでいる小学校の友達に、自分の姿を見られたくないのだ。

 

さりげなく隠れるのではなく、頭を膝の間に入れ両手で足首をつかむくらいの”着陸態勢”を取って隠れるところが、忍介らしいと言えば忍介らしい。

徹底している。

毎回毎回、家が近づくと忍介が着陸態勢を取って身を隠すのを見るのは、ちょっとおかしくもあり、そして切なくもあった。

不登校の頃のココロの傷は・・・

小学生たちが学校の行事でどこかに行く時に、先生に引率されて集団で電車に乗る。

忍介は電車通学だから、そういうのに出くわすことが何度かあった。

そんな時は、それが忍介の通う小学校の子ども達でなくても、彼が体を固くするのがわかった。

すっと僕ら親の後ろに隠れるように身をひそめるのだ。

あの頃から4年経つ。

昨日、忍介が家電量販店に行きたい、というので午前中、彼につきあった。

「ねえ、今日って学校はまだ春休み?それとも、もう春休み終わってる?」

忍介に聞かれて、いや、公立の小学校や中学校はまだ春休みのハズだよ。

そう答えながら、かつての”着陸態勢”のことを思い出した。

まだ気になるのかな?

いや。

多分、歳の同じ子ども達が集団で大勢いるのを見るのが苦手なんだろう。単純に。

無事に着陸しているということで、きっと良いんだろう。

そう思う。思いたい。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

1972年生まれ。 息子は小学三年生の時に不登校になり、小・中学校には通うことなく卒業しました(現在19歳・大学生)。 不登校や親子関係の悩みについて、セミナーや講座をお届けする「びーんずネット」の事務局を担当しています。趣味はマラソン。不登校をテーマにしたインタビュー事例集『雲の向こうはいつも青空』や各種書籍の出版をしています。