本当の大人

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忍介の高校の国語の教科書に角田光代さんの

「待つということ」

という短いエッセイが載っていて、
とても良かったとうちの奥さんが勧めるので
読んでみた。

中央線の駅のホームにいた時、
新宿駅に行く電車はどれか?と片言の英語で
アジア人の女性に尋ねられた角田さん。

次と次に来る電車は中野から地下鉄になる。

「3本目の電車が新宿行きです」

そう教えて、角田さんは地下鉄に
乗る予定だったので次の電車に乗った。

乗ったあと、不安そうに
「3本目」と指を折って
確認していた女性の顔を思い返した。

なぜ一緒に新宿行きの電車に
乗ってあげなかったんだろう?

そう後悔した。

角田さんは旅好きで、
たいてい一人旅をしている。
迷ったときはいつも、
地図ではなく人に助けられてきた。

かつてタイに旅行をした時、船着場から
バイクタクシーでバス乗り場に行った。

でもそこは全然バス乗り場に見えない。
あまりにも何もない。

バイクタクシーの運転手に

「本当にここがバス乗り場か、
バスは本当に来るのか?」

と身振り手振りで質問責めにすると、
運転手はバイクのエンジンを切って
角田さんと一緒にベンチに座った。

どうやら一緒に
バスが来るまで待ってくれるらしい。

でもいつまで経ってもバスは来ない。
無言の二人にぎらぎらと太陽が照りつける。

45分、1時間。
やっぱり来ないじゃん…

あきらめかけたとき、
陽炎の向こうからバスが現れる。

運転手はにっこり笑うとエンジンをかけ、
バイクで颯爽と走り去って行った。

角田さんは最後にこう書く。

不安げな顔の女性をホームに残したまま地下鉄に乗った私は、そのときのことを思い出していた。いつになったら私は、バイクタクシーの彼ほど大人になれるのか。人のために時間を差し出せる、それを当然と思える、本当の大人になれるのか。年齢ばかり重ねた私は、いまだ子どものようにあくせくしている。早くしなさいと叱られる子どものように、そのことが少し、恥ずかしくなる。

なんとも、
心にぐーっと沁み入る話じゃないですか?

と、いうのとともに――。

角田さんの文章に惹きこまれて、これが
国語の教科書であることを忘れていた。

「学習の手引き」

なる設問が何個かあるのだけど、
じんわりとした読後感を打ち砕く、
最強の質問がここに待っていた。

「新宿行きの電車をなぜ一緒に待ってあげなかったのか。ちらりと後悔した」とあるが、筆者はなぜ後悔したのか。

ホント、30年以上
こういうものから離れていて、今
改めて思うのだけど、、、

こういう設問ってなんなんだろうね?

要るのかな?
むしろ逆効果じゃないだろうか?

少なくとも僕は、うっかり
この設問を読んでしまったことを
ちらりと後悔した。

以上です。
今日も良い1日を。

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ABOUTこの記事をかいた人

1972年生まれ。 息子は小学三年生の時に不登校になり、小・中学校には通うことなく卒業しました(現在19歳・大学生)。 不登校や親子関係の悩みについて、セミナーや講座をお届けする「びーんずネット」の事務局を担当しています。趣味はマラソン。不登校をテーマにしたインタビュー事例集『雲の向こうはいつも青空』や各種書籍の出版をしています。