ユウキは完璧な子だった。ヒーローだった。
勉強はいつもトップでスポーツも万能。
明るい笑顔で、クラスの人気者。
父は会社を経営し、家は裕福。
優しい専業主婦の母、兄、祖父と祖母。
家族の愛に包まれ、
私立小学校から名門中学に合格。
誰もがうらやむほど、
何もかもに恵まれていた。
そしてそのパーフェクトさゆえに
ひきこもることになった――。
荒井裕司さんの『24時間先生』を読んだ。
荒井先生は約40年にわたって
ひきこもりの不登校生たちを家庭訪問し、
広域通信制高校を設立した方だ。
昼は校長先生、そして18時を過ぎると
家庭訪問をする先生になる。
文字通り「24時間先生」だ。
「あたたかなエピソードに涙が止まらない」
と帯にある通り、読んで何度も涙が出た。
どのエピソードもすごく良かった。
でも読み終わってすぐの今、
一番印象に残っているのは
冒頭に書いたユウキくんの話だ。
中学一年の夏休み明け、
ユウキは突然学校に行けなくなった。
奇声を発して泣き叫んだ。
家中の棚という棚、
タンスというタンスをひっくり返した。
母親が片付けようとすると暴れた。
そういう中、
荒井先生がユウキの家を訪問した。
荒れ果てた家は、ユウキの心そのものだった。
ユウキは確かめようとしたのだ。
「いい子」でなくても、「ダメな子」でも、僕を愛してくれるのか、と。
家の中で暴れることで、そう家族へ問いかけた。
「SOS」のシグナルを送ったのだ。
荒井先生のすすめでフリースクールに
通うようになり、時を経て
見違えるように笑顔が戻ったユウキ。
僕が一番印象に残っているのは
次のシーンだった。
ユウキの家族と一緒に、荒井先生も
テーブルを囲み、食事をしたときのことだ。
「せっかく先生が来てるんだから」
とユウキがはしゃいでものまねを始めた。
ものまねといっても芸能人のじゃない。
ユウキの家族のものまねだった。
おじいちゃんがお茶を飲む図。
お父さんが残業で帰ったときの様子。
お兄ちゃんの歯磨きの仕方。
お母さんが洗濯物をたたむところ。
家族大爆笑のワンマンショーが続く。
(ユウキ、君はこんなにも家族を見ていたんだね)
私は心の中で呟いた。ダメになった僕を受け入れてくれているのか、見捨てやしないか。毎日、毎日、ひと時も安心できぬまま、食い入るように見ていたのだろう。しぐさの一つひとつを絶対に見逃すまいと、家族の姿を目で追っていたんだ。
こんなに「ものまね」がうまくなるほど。
ぐわーっと胸に響いた。
つい、目の前の暴力に注意が向きがちだ。
そうですよね?
でもその向こうにあるSOSを、
見逃さないようにしないとね。
本当に、本当に……。
今日も良い1日を。
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