社会に出て働き始めたばかりの
甥っ子が愚痴っている。
そんな時、映画「男はつらいよ」で
お馴染み、フーテンの寅こと
車寅次郎はどうしたか?
とても素敵なレクチャーだった。
書き出してみる。
寅次郎:
そうか。商売してるかお前も。
仕事はおもしろいか?満男:
面白いわけないだろう?
名刺出してペコペコ頭下げてさ、
心にもないお世辞なんか
言っちゃったりして。
向いてないんだよ、俺。博:
まだ半年やそこらで
向いてるか向いてないか
わかるわけないだろう。さくら:
そうよ。努力もしないで、
面白くないとか向いてないとか、
そんなことどうして言えるの?満男:
俺なりにやったつもりだよ。
うるさいなあ。寅次郎:
満男。おじさんと勝負してみるか?満男:
勝負?寅次郎:
恥ずかしながら
おじさんも商売をしてるんだ。
もっとも道端に品物を並べてな、
寄ってらっしゃい
見てらっしゃいで売りつける、
ママゴトみてぇなことなんだけど。ま、20年30年やってると、
多少のコツって言うかね。
ま、そんなものは身につくんだな。(筆立てにあった黄色い鉛筆を二本
取り出して満男に差し出す)寅次郎:
俺に売ってみな。満男:
この鉛筆を?寅次郎:
そう。お前がセールス、俺が客だ。
さ、早く売れ!満男:
…おじさん。この鉛筆買って下さい。
ほら、消しゴム付きですよ。寅次郎:
いりませんよ。僕は字書かないし、
そんなものは全然必要ありません。以上!満男:
あ…。そうですか…。寅次郎:
そうですよ。…どうしました?
それだけですか?満男:
だってこんな鉛筆
売りようないじゃないか…。寅次郎:
貸してみな。さくら:
何が始まるの?寅次郎:
…おばちゃん。俺はこの鉛筆を見るとな、
おふくろのことを思い出して
しょうがねぇんだ。おばちゃん:
おや。どうして?寅次郎:
不器用だったからねぇ、俺は。
鉛筆も満足に削れなかった。夜、おふくろが削ってくれたんだ。
ちょうどこの辺に火鉢があってな、
その前にきちーんとおふくろが座ってさ。白い手で肥後守を持って
すいすいすいすい削ってくれるんだ。その削りカスが火鉢の中に入って、
ぷうーーんといい香りがしてなぁ。綺麗に削ってくれたその鉛筆で俺は、
落書きばっかりして
勉強ひとつもしなかったもんだよ。でも、このぐらい短くなるとな、
その分だけ頭が良くなったような
気がしたもんだった。さくら:
わたし、これくらいになるまで使ってた。博:
頭ンとこ、ちょこっと削って
名前書いたりして…。さくら:
そうそう。おいちゃん:
昔はものを大事にしたなぁ…。寅次郎:
お客さん、ボールペンってのは
便利でいいでしょう。ね?だけど、味わいってぇいうものがない。
満男:
そうですねえ。寅次郎:
その点、鉛筆は握り心地が一番だ。な?木の温かさ。
この六角形が指の間にきちんと収まる。ね。ちょっとそこに書いてごらん。
ちょっと書いて。ね。
なんでもいいから。うん。満男:
わあ、久しぶりだなぁ、鉛筆で字書くの。寅次郎:
どう?デパートでお願いすると
これ1本60円はする品物だよ。
でも、ちょっと削ってあるから。
ね、30円だな。いいよいいよいいよ、いいや、
もうタダでくれてやったつもりだ。
20円。20円。ね。すぐ出せ。
さっさと出せ。おばちゃん:
こまかいのあるかい?私が出しとこう。満男:
あ!タコ社長:
お見事お見事!おいちゃん:
さすがだなあ、寅。おばちゃん:
釣られちゃったあ。満男:
おじさん。参りました!寅次郎:
いやいやいや。俺の場合はね、
今夜この品物売らないと、
腹すかして野宿しなきゃならねえな
ってことがあってさ。のっぴきならねぇところから
絞り出した知恵みてぇなもんなんだよ。博:
だから迫力があるんですよ。おいちゃん:
そうそう。寅次郎:
ま、 人間なんつっても勉強が第一だから。
な?これからも修行して、
一人前の会社員になってください。男はつらいよ「拝啓車寅次郎様」
まったくもって、
脱帽のセールストークだと思いませんか?
そして、ここで言う「勉強」っていうのは、
少なくとも机に座って教科書開いてする類の
勉強じゃないのは明らかだ。
そう思ったし、あともうひとつ。
こういう説得術を
学校で教えてもらいたかったなあ、
とも思う。
「ほら、消しゴム付きですよ」
満男じゃないけど通常、
私たちがやりがちな説明はだいたいこうだ。
単にその商品の特徴を説明しただけ。
そして売れないと、
「だってこんな鉛筆
売りようないじゃないか…。」
往々にして自分の立場を
そんな風に嘆いておしまいだ。
でも寅さんは違う。
自分の思いが伝わるように
ストーリーで語る。
その商品についての思いを語り、
それをきちんと言葉にする。
どの点が(例えばボールペンと)違うか
しっかり把握して、的確に説明する。
実際に手にとってみてもらい、
相手の中に眠っていた思いを引き出す。
ただ単に売りつけているんじゃない。
人の心を動かす。
共感が得られるコミュニケーションをする。
これって、本当に教科書にはないけど、
生きていくのに大事な能力だと思う。
かくありたいものです。
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